ネットワークと農耕型
このSさんとの出会いは、町田のモデルハウスだった。突然時間が空いたとき、暇つぶしにふらっと立ち寄ったモデルハウスにいた方だ。静かな人で、自分からどんどん話すタイプではない。そのかわり、しっかりこちらの話を聞いてくれる。じつに辛抱づよく聞いてくれる。
でも実は知識や経験が豊かで、その上にちゃんと自分の考えもある。だから、聞いたことには必ず納得いくまで答えてくれた。あいまいなことがあれば必ずきちんと調べて、あとで返事をくれた。
それだけではない。私が何かに迷って、「あなたならどうしますか?」と水を向けると、必ず「私だったらこうします。」と明快に答えてくれる。このタイミングが絶妙だ。もしもこういう時に「人それぞれですから…」などと言われたら、私はうれしくないのだ。
そういうわけで、家を作るために打ち合わせをくり返している期間、この営業Sさんに関することでイライラしたことはなかった。それどころか、「さすがだなあ」と思わされることばかりだった。つまり、私はSさんのプロフェッショナルぶりを尊敬しているのだ。
今日は、そのSさんと、営業の仕事というものに関していろいろ話ができて楽しかった。Sさんの尊敬する上司が、「結局は‘ネットワーク’が大切」と言ったそうだ。‘ネットワーク’という言葉が出たので、ちょっと驚いて、
「Sさんののオシゴトの中での‘ネットワーク’って、具体的には何ですか」
って聞き返してみた。
答えは、「外と内と二つの人間関係」だそうだ。
まず、お客さんとのつながりだ。お客さんを大切にして触れ合っていけば、そのお客さんがつながっている人を紹介してもらったりして、また新しいお客さんができていく。
でも、お客さんばかりでなく、社内の人や業者さんなどとの関係も大切にしている人は、いざというとき助けてもらえたり、あるいは社内の人の知り合いから仕事をもらえるようなことだってある。
中には、名簿などから新しいお客さんの開拓にがんばるが、内部の人には横柄、みたいな営業さんがいて、そういう人は結局、いろいろとうまくいかないそうだ。
また、天才肌ですごい成績をあげてきた、伝説的な営業さんもいる。ふだんはパチンコばかりしてて、残業もほとんどしない。でもやる気になるとぱっとお客さんを捕まえるハンターのような人。
ところが、その人が営業所長になると、自分のようにできる部下はなかなかいないし、教えるのも苦手だから、その営業所の成績はフツーだそうだ。…すごくよくわかる気がした。
「結局、住宅の営業も、農耕型のコツコツがいいんですね」
と言うと、
「そうですね。まあ自分はそのタイプです。そういう人がほとんどです。」ですって。